「THE iDOLM@STER」Side Story
「プレゼント・パニック！」
〜千早の場合〜
やよい・春香・真が、ファンからのプレゼント攻勢に右往左往している中、如月千早はその様を静かに見守っていた。
（春香や高槻さん、真はああやってものをもらえるけど、私には歌しかないから……）
そんなある日のこと。
千早は小次郎から渡されたファンからのプレゼントの中に、何やら堅いものが入っているのを見かけた。
本来なら小次郎や小鳥がより分けてからアイドルに手渡されるものだが、この日は仕事が立て込んでいて、その暇もなかった。
これで剃刀とか誹謗中傷の手紙とかが入っていたらまずいことになるところだったが、そのプレゼントの中身は、幸運にもそういうものではなかった。
「？ 何かしら…」
封を切ってみると、そこには一枚のＣＤ−Ｒとメッセージカードが入っていた。
「千早さんがこの前、雑誌のインタビューで『いまは歌が一番の興味』といっていたのを見て、自分で歌を作ってみました。
多分、千早さんの好みにも合うと思うのですが…」
それを見た千早は、
「プロデューサー。この後、レッスンスタジオ空いてますか？」
小次郎に尋ねてきた。
この７６５プロ、かつては渋谷の裏通りの、まるで流行らない居酒屋の二階に間借りしていたが、いまはそこから車で十分ほどのところで、マンションの数部屋を間借りして社屋にしている。
以前の「居酒屋の二階」ではとても無理だったが、新社屋になってからは、ボーカル・ダンス・ビジュアルのレッスンや簡単な収録も出来るスタジオを自前で作ることが出来るようになったのだ。
その一室を、千早は借りようというのである。
しばらくして、小次郎が様子を見にスタジオへやってきた。
ノックをしてドアを開けると、千早はスタジオの椅子に腰掛け、流れる音楽に聞き入っている。
「何かけてるんだ、千早？」
「あっ、プロデューサー。
実は、さっきのプレゼントの中にＣＤが入ってたんです。
何でも、私へのプレゼントに自分で曲を作ってきたとか」
「え！？」
空中に疑問符と感嘆符を同時に飛ばす小次郎。
「それ……、俺も聞いていいか？」
「えぇ、プロデューサーにも是非」
千早がそういったので、小次郎はプレイヤーのリモコンを操作し、最初からそのＣＤを聴き始めた。
「……本格的だな、このファンの子」
ＣＤを聴き終った小次郎が感嘆のため息を漏らす。
「千早が音楽好きだからって、まさか自作の曲持ってくるファンがいるとは思いもしなかったな」
「えぇ、意外でした」
「というか、この曲書いた子が誰かわかれば、ウチで契約したいくらいだな。
これだけの才能が野に埋もれていたことに気づかないとは、俺もまだまだ未熟だな」
「そ、そうでしょうか…」
千早は、いまの小次郎の心境告白に的確に突っ込めるボキャブラリーを持ち合わせていなかった。
千早が帰った後、小次郎は千早のファンからプレゼントされたＣＤからパソコンに取り込んだ曲を聴いていた。
「遅くまでお疲れ様ですー。
…あれ！？ 何を聴いてるんですか、プロデューサーさん？」
小鳥が、コーヒーの入った大小のマグカップを持って事務室にやってきた。
「あぁ、小鳥さんもお疲れ様です。
……いや、実はコレ、千早のファンの子が、千早にプレゼントするために自分で書いた曲なんだそうで」
「千早ちゃんの、ファンがですか？」
「えぇ。これがなかなかクオリティ高い曲で。
できたら、この曲書いた子をウチにスカウトしてアイドルたちに曲を書いてもらいたいくらいですよ」
「そんなに？」
「まぁ、聴いてもらったら判りますって」
そういうと、小次郎は耳にかけていたヘッドフォンをはずし、小鳥に渡す。
そして一通り聴き終わって。
「……プロデューサーさんの言う通りね。
この子スカウトしてみたいわ、いろんな意味で」
「社長じゃないけど『ティンと来た！』ってところですか？」
「えぇ、こんな才能をこのまま置いとくのって、まさに『才能の不法投棄』じゃない」
小鳥が乗ってきたので
「そうですね。とりあえず千早にメールして、送ってくれた子の連絡先とか聞いてみます」
――その後、千早にこの歌を贈ったファンは正式に７６５プロと契約を交わし、作曲家になるのであるが、それはまた別の話。