「THE iDOLM@STER」Side Story
「プレゼント・パニック！」
〜真の場合〜
「……それで、最近真くんがハマっていることって、なに？」
いつもは春香ややよいと「パーフェクトサン」というユニットを組んで活動している真。
今日は真一人の仕事で、関西出身の一流お笑い芸人がホストを務めるトーク番組に出ている。
「そうですね…最近は、『少女漫画』かな？」
真の「男っぽい」ルックスから飛び出したその発言に、ホストの芸人は
「おっ、意外な発言やね」
と返す。
「こう見えてもボク、女の子ですから」
そうなのだ。
真は「男の子が欲しかった」という、レーシングドライバーの実父の影響で「らしく」育てられてしまったという経緯がある。
そんな自分を変えたくて、彼女は芸能界に飛び込んできたのであるが……。
その番組が放映されると、またもや３ちゃんねるが反応した。
女性とおぼしき投稿人が「真くんに私のオススメ本を贈る」といったかと思えば「男が少女漫画買いに行くのって、勇気いると思わない？」という投稿も。
――そして今度は、、事務所にファンから贈られてきた少女漫画本が山のように積みあがった。
その分量は、そのまま事務所の前の路上に持ち出して古書市が開催できるほど。
「……しかし、『少女漫画』といってもいろいろありますよね。
俺、家族で『女性』と言えば母親くらいなもので――要するに男兄弟で育ったんで、なかなか見る機会もなかったし、いまいちぴんと来なかったんですが」
プレゼントの集積場になってしまった予備室。
小次郎と小鳥は、ファンから贈られてきた少女漫画本を真に渡す前の「内容チェック」として、ここにこもっている。
「恋愛モノもあるかと思えばギャグもサスペンスも…一通りありますね」
「ふふっ、それだけじゃないんですよ。プロデューサーさん」
「？」
「ほら、こんなのも…」
そういって、小鳥が渡した一冊の本。
小次郎がパラパラページをめくると…
「うわ、何この露骨なエロ描写…。
俺が中学高校の頃に見てたエロ本とどっちがエロいんだろ？」
「ティーンズラブ」というジャンルで呼ばれるその本の描写に目を丸くした。
「これは、真には見せられんな。刺激が強すぎる」
小次郎がそういうと、小鳥は、
「あ、でしたらこちらにください。
『責任持って』処分しますから」
笑みを浮かべながらそういっていた。
そうして、仕分け作業もある程度進んだとき。
小次郎は薄っぺらい本の束を手に取っていた。
それは、一般の書店流通に並ぶ本ではなく、個人が自費で印刷・刊行している「同人誌」というものであった。
加えてその同人誌では、美少年や美青年があんなことやこんなこと――十八歳未満の閲覧には適さない表現がなされている。
「うわ、やおい本か。これも真には…」
その台詞を最後まで言い切らないうちに小鳥が口を挟み
「そ、それも私が『責任を持って』処分しますね」
というや、本の束をひったくって隠してしまった。
いったい小鳥は、真のファンから「巻き上げた」これらの本をどうするつもりなのだろうか……？
その翌日。
「おっはようございまーす、プロデューｓ……、
あれ、プロデューサーは？」
出社してきた真が、小次郎の不在をいぶかっていると
「おはよう、真ちゃん。
プロデューサーさんなら、予備室で寝てるわよ。
ゆうべ、ずっと事務所に残って真ちゃんへのプレゼント仕分けしてたみたいだし」
小鳥にそういわれて
「そ、そうだったんですか…」
そこまでしゃべったとき、真はあることに気がついた――小鳥の肌が、いつも以上に艶を増していることに。
「あ、小鳥さん……
今日はお肌、いつも以上につやつやしてますね？」
「うふふ、そ、そうかしら？」
笑みを浮かべながら返答する小鳥。
「もしかして、化粧品変えたとか？」
「あら、特にそんなことはしてないわよ」
意味ありげな笑みを浮かべる小鳥であった。
「あっ、そういえば、真ちゃんが来るちょっと前に雪歩ちゃんが来て、プロデューサーさん起こしに行ったわよ」
小鳥がそう教えてくれたので、真もそっちに向かう。
小次郎がいる、という予備室の扉が開きっぱなしになっていたので、真はそのまま部屋に入ろうとする。
一歩足を踏み入れると、その目前には同じ事務所のタレントである萩原雪歩が立っていた。
「な……な……な……」
半べそをかきつつ、言葉にならない声をあげている雪歩に
「どうしたの、雪歩？
ここに何か変なのがあったの？」
真に質問され、雪歩は
「ま、真ちゃん……。
ぷ、プロデューサーの持ってる本……」
「この本がどうかしたの？」
「ま、真ちゃんと……み、美希ちゃんが……」
改めて表紙を見ると、そこには、漫画調にデフォルメされた真と、これまた同じ事務所のタレントである星井美希とが、上半身裸の姿態で抱き合っている絵が描かれていた。
おそらく、真か美希のファンが描いた同人誌であろうか。
「な……な……」
真っ赤になりつつも、どうにか残った理性をフル動員して
「プロデューサー、起きてください！」
部屋の片隅で丸まって寝ている小次郎に声をかける真。
「んあ…おあよーまふぉと…」
半生解凍状態で返事する小次郎。
そんな小次郎に真は
「寝ぼけてる場合じゃないですよ、プロデューサー。
これ、本当にファンの子が送ってきたんですか！？」
「まぁ、そうなんじゃないかなぁ…
世の中、いろんな人間いるんだし」
「で、でも……これ……いくらなんでも恥ずかしすぎますよ。
ボクと美希がそんな関係だなんて、むちゃくちゃ描いてるし」
本当に恥ずかしそうな表情を見せる真。
「そういわれてもなぁ。
文句があるんだったらこれ描いた子に言ってくれよ。
俺に振られたってどうしようもないし」
結局「そういう」本は全部小鳥が引き取ることにして、残った本を事務所のアイドル全員で分配して持って帰ることになった。
「やよいちゃんには……この辺の、ギャグ漫画とか肩の凝らない本がいいかな……って、やよいちゃんの家だったらカスミちゃんくらいしかいなかったわね。こういうの読むの」
小鳥はやよいに少女漫画本を渡しながら、ちょっと心配そうな表情を浮かべたが
「あっ、でも、難しくない本だったら弟たちも大丈夫かも」
やよいはそう答えていた。