「THE iDOLM@STER」Side Story
「プレゼント・パニック！」
〜そして、オチ〜
「今日のゲストは、三浦あずさちゃん！」
サングラスがトレードマークの司会者が名前を呼ぶと、袖から長い黒髪と豊満な肢体を、上品な雰囲気のオーラで包んだ美女が姿を見せた。
その美女――７６５プロ所属タレント中最年長の三浦あずさは、湾岸テレビが平日昼間に放送している、国民的人気を誇るトークバラエティ番組のゲストとして生出演中である。
「えー、あずさちゃんの趣味って『犬の散歩』ということだけど、ワンちゃん好きなの？」
「はい〜。東京に来る前、実家でも『とらたん』ってわんちゃん飼っていたんですけど、こっちに来てからなかなか会えなくて。
いま住んでいるマンションも、ペットはダメなんで、こっちでお世話することできませんから、もう私のこと忘れちゃったかとちょっと心配でー」
放っておけばいつまでもしゃべり続けそうなあずさの犬話を、司会者はなんとか腰を折らないように誘導しようと努力するのであった。
「ひ、ひうっ！」
それを事務所のテレビでたまたま見ていた雪歩が悲鳴を上げた。
「？ どうした、雪歩」
小次郎が声をかけると
「ぷ、プロデューサー……。
あずささんがあんなこと言うから……
私……私……明日から事務所来られません……」
震えつつ、涙目で話す雪歩。
「なんでまた？」
「だ、だって……あずささんがテレビであんなこと言っちゃうから……。
きっと、明日になったらあずささんのファンが『プレゼント』とか言って、犬をいっぱい送ってくるに違いないですぅ……」
やよいに始まり、春香に真、千早、亜美に真美と、この一か月あまり、７６５プロは「ファンのプレゼント祭」に振り回されていたこともあって、雪歩はそう思ったのだろう。
半分ずっこけそうになりながらも小次郎は
「気持ちはわからなくもないけど、まずは落ち着け雪歩。
犬や猫ってさ、単純に用意するにしても金かかるし、宅配でもまず送れんだろ？
だから、プレゼントがあるとしたら、せいぜい犬のぬいぐるみとか写真集とか『わんわんカフェ』の優待券とか、そんなのが関の山だろ？」
そこを引き取って続く声が。
「そうよ、プロデューサーの言う通りよ。
だいたいね、あずさのファンがいくらアレだといっても、どうやってそんなモノ送ってくるというのよ？
それに……」
小次郎がそこを振り返ると、栗色の長い髪に、大きなリボンを一つ頭頂部に結んだ少女――水瀬伊織がいた。
その伊織は続ける。
「それに、犬ならここにもいるんじゃない？」
「へ！？」
小次郎が呆れたような表情で伊織を見る。
「伊織。犬って……どこに？」
「もぉ、判らないのね……。
アンタよ、ア・ン・タ！」
小次郎に人差し指を突きつけながら伊織が言い返す。
「……俺が、犬？」
小次郎に続いて
「プロデューサー（さん）が、犬（ですか）？」
「伊織ちゃん。プロデューサーは、わんちゃんじゃないですよ〜」
その仲間たちの言葉に伊織が応酬。
「何を言ってんのよ。プロデューサーって、私たちにとっては犬みたいなんじゃないの！？
それ以外のなんだって……」
と、そこで背中をつつかれる伊織。
振り向くと、いつの間にか律子が伊織の後ろに立っていた。
「伊織、もうその辺にしておいたほうがよくない？」
抑揚のない声で律子が言うと、
「り、律子。なんで…」
何も言わすに小次郎のほうに指をさし、伊織の視線をそちらにやる。
その方向にいた小次郎は、目の光を意図的に消しながら
「いーおーりーさーん……。
さっきから黙って聞いてたんですが、ずいぶんなもののいい方してくれますよねー」
これまた抑揚を意図的に抑えた口調には、名状し難いオーラが立ち上っている。
「な……な……」
「伊織さん。このあとのダンスレッスンですけど……、
超ハードメニューなアレでいきましょうかね？」
「ひ、ひえぇぇぇ〜」
とまれ、今日も７６５プロは平和である。