「……あなた、朝ですよ。起きてください」
　眠っている公にそう呼びかけながら、優しくゆすぶる。
「……う〜ん、真奈美ぃ、そんなにゆするなよぉ……」
「ねぇ、起きて。会社に遅刻しますわよ」
　耳元でささやくと、ようやく公は瞼を開ける……。

　玄関先。
「今夜は、何時に帰れます？　晩ご飯は？」
　靴を履いている公に聞くと、
「うん。今日は定時に上がれるはずだから、一緒にごはん食べられるよ」
「よかった……」
「いつだって真奈美だけだからね、俺は。
　……それじゃ、行ってくるね」
　そういって、小鳥が餌をついばむようなキスを交わし、大きくて頼もしい公の背 中を見送る……。

　そして夕方。
　玄関先の足音で、公が帰ってきたのが分かる。
　スリッパの音をパタパタさせながら玄関に行くと、ドアが開いて公が姿を見せる。
「ただいま、真奈美」
「お帰りなさい、あ・な・た」
　そういうと抱き合い、朝よりもちょっとだけ長く、深い口づけを交わす……。
「……おっ、今夜はカレーか」
　それでお料理の途中だったことを思い出し、
「いっけな〜い！　お鍋……」
　あわてて台所へ戻る。

　食卓。
　公はカレーを一口すくうと、口へ運ぶ。
「どぉ？」
　心配そうに覗き込むと、公は笑顔で
「うんっ、うまい！　やっぱり真奈美のごはんは最高だよ」
　と言ってくれる……。

　いつのまにか夜も更けて……。
　ふたりは抱き合いながら、大きな布団にくるまっている。
　何も着けていない、産まれたままの姿で……。
「真奈美……、愛してる……」
「公さん……」
　お互いに目を閉じて、深く、長い口づけを交わす。
　そして……………………。


　と、このような調子で真奈美の"妄想"は延々と続き、芝田の呼び掛けに反応した ときには、60年後、家に遊びに来た孫娘に肩を揉んでもらい、ごほうびにお小遣い をあげているシーンまで思考はぶっ飛んでいた……。