「THE iDOLM@STER」Side Story
「プレゼント・パニック！」
〜春香の場合〜
やよいの騒動が一段落しようかという頃。
やよい・春香・真の出演する「ラジオでｉｍ＠ｓｔａｒ」で一通のメールが読まれた。
「先日の放送で、やよいちゃんの好きなもののお話が出ましたが、今度は春香ちゃんに質問します。
春香ちゃんって『お菓子が好き』という風に聞いていますが、本当ですか？」
「――ですって。どうなんですか、春香さん？」
やよいから振られた質問に、春香は
「うーん、そうですね…。
お菓子は、作るのも食べるのも大好きなんです。
最近は、『地域限定のお菓子』ってあちこちにありますよね？
私、ああいうの結構好きなんです。
お仕事で地方行ったとき…」
その発言を聞いていたファンたち
「今度は、閣下に貢物だ！」
「ちょっとコンビニ行ってくる」
「俺ちょっと土産物屋襲撃してくる」
などなど、またも３ちゃんねるで好き勝手なことを言いまくり…。
そして数日後。
今度は予備室に春香へのプレゼント――一部のファンは「貢物」と表現している――であるお菓子が山のように積み上げられた。
「この辺の――煎餅とかおかきは、３ちゃんねる見た子が近所のコンビニで買い占めた、ってやつだな。
酒のアテになるぞ……って、春香は未成年だし。
こっちは……『白い恋人』？ 北海道の子だな。
うわ、『赤福』までありやがる……賞味期限は――まぁいいか」
「京都の八つ橋に広島のもみじ饅頭……こっちは九州の『ひよ子』に『九十九島せんべい』……
いろんなところから来たんですね」
「プロデューサー、なんかこっち、味噌の匂いがすると思ったら、名古屋の『八丁味噌プリッツ』ですよ」
小次郎と小鳥、そして律子が、積み上げられたお菓子の山からさまざまな品を取り出して感想を言い合っている。
それを見ていた、贈られる対象である春香。
「こんなにいっぱい、とても食べきれませんよぉ…」
その言葉に、小鳥は手を止めて振り返り
「春香ちゃんのファンの子たち、こういうときの結束力はすごいですからね」
その後を引き取って、小次郎が続ける。
「プレゼントについてるファンレターもスゲーぞ。
『閣下への忠誠の証として捧げます』だって」
「春香のファンっていったい…」
ある意味で強烈な言葉が連なっているファンレターに、律子はただ呆れている。
「あの…春香さん？」
一緒に来ていたやよいが声をかけてきた。
「そこのお菓子……ちょっとだけ、持って帰ってもいいですかぁ？
弟や妹、すっごい喜ぶと思うんでー」
「えぇ、いいわよ。少しくらいなら」
春香が快諾すると、やよいは
「うっうー、ありがとうございまーす！」
そう言いつつ、上体を勢いをつけて大きく折り曲げ、更に反動で両方の腕を後ろに高く上げる――ガルウィングのポーズで礼をした。
その日の晩、春香の携帯にやよいから届いた一通のメール。
そこには、事務所から持って帰ってきたお菓子の山を前に満面の笑みを浮かべる高槻家の弟妹たちの画像が添付されていた。
――と、ここで終われば万々歳だったが……この話には更なる続きがある。
東京都内のある菓子店。
情報誌で時折話題になるその店に来るお客は、若い世代の女性がメインであり、そういう人々の好みに合った商品ラインナップをしていた。
しかし、この日は客層が違っていた。
どう見ても異性にはモテそうもない風貌の若い男――ネットのスラングでは「毒男」とか言われるような――が、群れを成してその店の行列に並んでいたのである。
これが「クリスマス」とか「ホワイトデー」の時期であれば、そうした客がいてもなんらおかしくないが、いまはその時期でもない。
店員も他の女性客も、奇妙な雰囲気に違和感を覚えつつあった。
「あのぉ…」
列の先頭に出たその若者が、店員に注文を投げる。
「この……ケーキ……ひとつ……」
「はい、ありがとうございます」
「それで……その……」
「はい？」
店員が若者に聞き返す。
「これ……メッセージ、入れられますか？
プレゼントにしたいんで」
「はい、出来ますよ」
「それじゃ……『春香ちゃんへ』って」
こうした光景が、全国各地で繰り広げられたという……。