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「THE iDOLM@STER」Side Story
「Do You Believe "Destiny"?」
インターミッション「まりっじパーティー」
深夜。
勤務先である７６５プロから帰宅した小次郎は、部屋の電話からあるところに話をしていた。
「うん…うん。
そうか、お前がねぇ…。
判った。明日は６時で良かったよな。
それまでには仕事切り上げてくるし。
じゃ、また明日」
そして翌朝。
いつものように、田舎の町から始発電車で２時間かけて事務所に出社してきた春香は、いつも一番に挨拶する相手――担当プロデューサーである小次郎の身なりがいつも以上にこざっぱりしていたのを見逃さなかった。
「あれ？ プロデューサーさん、今日は妙におしゃれですよね？
何かあったんですか？」
春香の質問に、小次郎は頭をかきつつ
「いや、今日結婚式…」
そこまで言ったとたん、春香は
「えーっ、ぷ、プロデューサーさんが結婚？
私、そんな話ぜんぜん聞いてませんでしたよぉ」
脳細胞のどこをどのように使って考えたのか、そんな言葉を思わず口にしていた。
小次郎は、春香の唐突な発言に内心で頭を抱えつつ
「あー、ちょっと待て春香。俺じゃないって。
結婚すんのは昔のダチ。
前、春香にも話してただろ？ 俺が昔、自衛隊にいたってこと。
その時――高校出たての新米隊員だった頃の同期でな、俺と同じようにずっと独身だったんだ。
それがこないだ、突然結婚式の招待状よこしてきてな…」
「…なぁんだ、プロデューサーさんが結婚するんじゃなかったんですね」
春香は小次郎の説明に、ある程度納得したような表情を浮かべたかと思うと、続けて
「よかった…」
と、小声でつぶやくのであった。
「何か言ったか、春香？」
「う、ううん。なんでもないですよ」
「ってことで、今日は10時から雑誌の取材が１本。午後からはダンスレッスンだな。
俺はさっき言ったとおり、披露宴があるから15時には出るんで、あとはインストラクターの先生に頼んでおいてある。
いいな？」
「はい」
小次郎がスケジュールを伝達し、春香に確認させる。
その一連の会話が済むと、小次郎は。
「…しかしなぁ、春香。
なんだって『結婚式』ってフレーズにそこまで反応するかなぁ…。
だいたい、いまはおまえを売り出すので手一杯だから、『彼女』作ったりデートしたりとか、そんな暇どこにもないんだけどなぁ…。
このところ、半分事務所で暮らしてるようなものだし」
春香に向けてついぼやいてみせる。
「あ、あはは…。そ、そうですよね」
小次郎は、事務所の天井を仰いで大きく伸びをしながら、今度は誰にともなくつぶやく――それにしてはかなり大きな声で。
「あーあ。俺の結婚、いつになるんだろうなぁ…。
どっかにいい娘いないかなぁ…」
ガタッ。
その言葉が、事務所内の誰かの耳に入っていたらしい。
音のしたほうに小次郎が視線を向けると、事務員の音無小鳥と視線が合った――ように見えた。
その日の夜。
小次郎は、件の結婚披露パーティーが行われている、都内某所のフレンチレストランを訪ねていた。
受付で名前を記帳し、会場に足を踏み入れると、かつて自衛隊で「パイロット」の夢を一緒に追いかけていた仲間が声をかけてきた。
「よぉ、麻宮。久しぶりだな」
「お、今野か。お前のほうこそ久しぶり…元気そうだな？」
「あぁ、まぁな」
「今野」と呼ばれたその男、相好を崩しながら小次郎に尋ねてくる。
「そういえばお前、退官してからずいぶんになるみたいだけど…いま、何やってんだ？」
今野の問いに、小次郎は少し考えるような姿勢を見せつつ
「あぁ。いま、芸能事務所で世話になってる」
「芸能事務所!? なんでまた…
タレント見習いとか何かか？」
「お前もテレビとかで見たことあるだろ？ アイドルの『天海春香』。
俺、いま、その娘のプロデューサーやってる」
小次郎がそういうと、今野は
「マジで!?
…お前だったのか、天海春香のプロデューサーって」
のけぞらんばかりの勢いでそう返してきた。
それから数時間。
宴も終わり、出席者は三々五々帰路につく。
そして、小次郎も一人、自宅への帰路についていた。
本当は主賓のグループから「三次会」に誘われていたが「明日も早くから仕事がある」と口実をつけて断っていたのだ。
自宅最寄の駅から、アパートまでの道のり。
未分解のアルコールがまだ残った血液が巡っている小次郎の脳細胞には、先ほどのパーティーで見た風景――かつての「戦友」とその令夫人となった女性が、互いに「生涯のパートナーを得た」幸せを満面に浮かべながら見つめあっている様が再生されていた。
その映像が浮かんだとき、小次郎の口はある言葉を発していた。
「あーあ。俺の結婚、いつになるんだろうなぁ…。
どっかにいい娘いないかなぁ…。
……万が一の時は……」
その時浮かんだのは……いつも事務所で、テレビ局で、レッスンスタジオで顔をつき合わせている「パートナー」である乙女の顔。
それが出た瞬間、小次郎の脳細胞は「否定」の信号を発していた。
（い、いやいや。あいつだけはダメだろ!?
年も年だし、何よりも俺たちにとっては…）
天海春香と麻宮小次郎。
二人の「想い」が通じるには、あとどれくらいの時間が必要なのか……
それは、神のみぞ知るところ。